日本人は塩分を
摂りすぎている!?
塩分は、人間にとって欠かせない栄養素のひとつ。
ユネスコ無形文化遺産にも登録されている和食でも、そのおいしさと塩分は切っても切れない関係にあります。
とはいえ、塩分の摂りすぎは、さまざまな病気のリスクを高めることにもつながります。
おいしく、健康的な食生活のためにも、減塩を意識しつつ、塩分を日々の食事に上手に摂り入れるコツをおぼえておきましょう。
和食=健康というイメージの裏にある
食塩過剰摂取の落とし穴
日本の伝統的な食文化であり、旬の食材を大切に、一汁三菜を基本とする和食。
栄養バランスに優れ、欧米の食事に比べて動物性の脂質が少ないため肥満を引き起こしにくいという健康的な面がある一方で、食塩摂取量が多くなりやすいという面もあります。
それは、日本では、味噌や醤油をはじめとする伝統的な調味料、保存が利く漬物や干物といった昔ながらの加工食品など、食塩を多く摂る食習慣が根づいているからとも考えられています。
厚生労働省「平成29年国民健康・栄養調査結果の概要」によると、日本人の食塩摂取量の平均値は9.9g。
この10年間でみると減少してはいるものの、WHO(世界保健機関)が成人の目標量としている1日5g未満(食塩相当量)と比べると、まだまだ多い状況です。
出典:厚生労働省「平成29年国民健康・栄養調査結果の概要」
食塩摂取量の平均値の年次推移(20歳以上)(平成19~29年)
伝統的な食習慣に加え、惣菜や弁当などの加工食品を食べたり、外食をしたりする機会が増えたことも一因と考えられています。
ちなみに厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、成人の目標量(食塩相当量)を男性は1日7.5g未満、女性は1日6.5g未満としています。
出典:厚生労働省「平成29年国民健康・栄養調査結果の概要」
食塩摂取量の平均値(20歳以上、性・年齢階級別)
塩分の摂りすぎはさまざまな病気のリスクを高めることにつながります。
よく知られているのは高血圧。塩分に含まれるナトリウムは、カリウムとともに体内の水分バランスや体液の浸透圧を調節しています。
塩分を摂りすぎると、血液中のナトリウム濃度が高くなり、浸透圧を一定に保とうとするために血液量が増えます。その結果、血管壁にかかる負担が大きくなり、血圧が上がると考えられています。
血管や心臓に負担がかかる高血圧は、脳卒中や心筋梗塞、心不全、動脈瘤など循環器系の病気につながります。
高血圧のほかにも、過剰な塩分を排出するため、腎臓に負担がかかって腎不全を引き起こしたり、ナトリウムとともにカルシウムも排出されるため、骨粗しょう症を引き起こしたりすることもあります。
また、過剰な塩分によって胃の粘膜がダメージを受けることで、発がん性物質の影響を受けやすくなり、胃がんのリスクが高まるとも考えられています。
減塩料理のおいしさの決め手は
「うま味」による香りと風味
食塩摂取量を減らすには、大きく分けてふたつの方法があります。
使う食塩の量そのものを減らす方法と、塩分を含む料理を食べる量を減らす方法です。
ただ後者の場合、栄養バランスが偏ってしまう恐れがあります。
そのため、前者のほうが好ましいとされますが、食塩の量を減らすことで料理の味が変わってしまう、つまりおいしくないと感じてしまう人も少なくありません。
それは、食塩の量を減らし、薄味になった結果、料理の風味全体が損なわれてしまうためと考えられます。その風味を補うのに活躍するのが「うま味」です。
うま味は、甘味、酸味、塩味、苦味とともに基本味とされる味のひとつ。
代表的な成分にグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸などがあります。
そのうま味成分を豊富に含むのが和食に欠かせない「だし」。
特に匂い成分を多く含むかつおだしを加えると、料理に使う食塩の量を減らしても、香りと風味が増す分、おいしく感じられるといわれています。
また、うま味には相乗効果があり、たとえばこんぶ(グルタミン酸)とかつおぶし(イノシン酸)、香草(グルタミン酸)と肉(イノシン酸)のように、異なる成分を組み合わせることで、うま味が増すことも知られています。
うま味のほかにも、スパイスや酸味(酢、レモン汁など)、薬味(ネギ、ニンニク、ショウガなど)なども香りや風味を補うのに役立ちます。
また、過剰な塩分を体外に排出する働きをするカリウムを多く含む食品(新鮮な野菜、赤身の肉など)を食べる、調味料は低塩のものを選び、むやみに使わない、ラーメンなどの汁を残す、加工食品や外食を減らすなど、食習慣の改善も減塩の一歩です。
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監修:上月正博 氏
医学博士。東北大学大学院医学系研究科教授。腎臓専門医、リハビリテーション科専門医、総合内科専門医、高血圧専門医。
1981年 東北大学医学部を卒業。2000年 東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻内部障害学分野教授、2002年 東北大学病院リハビリテーション部長(併任)、2008年 同障害科学専攻長(併任)、2010年 同先進統合腎臓科学教授(併任)。「腎臓リハビリテーション」という新たな概念を提唱し、腎疾患や透析医療に基づく身体的・精神的影響を軽減させる活動に力を入れている。著書に『ビジュアル解説 腎臓病は運動で改善する! 驚きの実績! 東北大学式腎臓リハビリ』(学研プラス)などがある。
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